ウコンに含まれる成分が腸内フローラを介して脳・脊髄の炎症を抑制 プロドラッグ型「クルクミン」の多発性硬化症治療への応用に期待

プロドラッグ型のクルクミンは、腸内フローラを介して脳や脊髄の炎症を抑制する
プロドラッグ型のクルクミンは、腸内フローラを介して脳や脊髄の炎症を抑制する

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)微生物学教室 講師 尾村 誠一、大学院 医学研究科 博士課程3年生 スンダル・カドカ、教授 角田 郁生を中心とした研究チームは、京都大学大学院(京都府京都市)薬学研究科教授 掛谷 秀昭、近畿大学医学部ゲノム生物学教室教授 西尾 和人との共同研究により、ウコンに含まれる「クルクミン」の構造を変化させたプロドラッグ※1 型の化合物が、腸内フローラ※2 を変動させることで、脳や脊髄の炎症を抑制することを世界で初めて明らかにしました。本研究は神経難病の一つである多発性硬化症※3 のモデルマウスを用いて検証しており、今後、研究成果を多発性硬化症の新たな治療に生かすことが期待されます。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)12月3日(金)に、微生物学の国際的な雑誌"Frontiers in Cellular and Infection Microbiology"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●プロドラッグ型のクルクミンを投与することで、多発性硬化症モデルマウスの麻痺症状が軽減され、脳・脊髄における炎症が抑制されることを世界で初めて確認
●プロドラッグ型のクルクミンは、腸内フローラを変動させることで脳・脊髄の炎症を抑制することが明らかに
●本研究成果を、神経難病の一つである多発性硬化症の新たな治療へ生かすことに期待

【本件の背景】
ショウガ科のウコンに含まれるクルクミンという化合物は、抗腫瘍、抗炎症、抗酸化など様々な効能が明らかになっており、脳や脊髄など中枢神経系の疾患である多発性硬化症や、がんや心臓病などの疾患に対する有効性が期待されています。しかし、臨床研究においてクルクミンそのものを口から摂取しても、期待通りの効能は得られません。その原因として、クルクミンは体内に吸収されると急速に代謝され不活性化されること、また腸から吸収されにくく高い血中濃度が維持されないことなどから、体内で活性を発揮できないと考えられています。
そこで本研究チームは、体内で活性を持つようにクルクミンの構造を化学的に変化させた「クルクミンモノグルクロニド(CMG)」という化合物(プロドラッグ型のクルクミン)を開発し、動物実験でCMGを静脈または腹腔内に投与することで血中のクルクミン濃度を大幅に上昇させ、抗がん作用が認められたことを報告してきました。
一方、クルクミンそのものを口から摂取した際に、腸内フローラや免疫応答が変化することが先行研究にて報告されています。腸内フローラの変化をきっかけに全身に影響が及ぶことは知られていますが、多発性硬化症のように腸とは遠く離れた脳や脊髄の炎症とどのように関連するかは明らかではありませんでした。

【本件の内容】
研究チームは、多発性硬化症のモデルマウスを用いて、CMGの投与が脳・脊髄の炎症と腸内フローラにどのような影響を及ぼすのかを検証しました。その結果、CMG投与により、多発性硬化症に見られるような麻痺症状と、脳・脊髄における炎症に改善傾向が見られました。また、腸内フローラを構成する細菌を解析した結果、CMGの投与前後で細菌の構成が変化しており、その変化は脳・脊髄における炎症の程度と有意な相関がみられることが明らかになりました。
これにより、プロドラッグ型のクルクミンを摂取することで、腸内フローラが変動し、脳・脊髄での炎症が抑制されることが世界で初めて明らかになりました。クルクミンはウコンに含まれる成分で口から摂取しても安全であることから、今後多発性硬化症の新たな治療に活用されることが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:Frontiers in Cellular and Infection Microbiology
    (インパクトファクター:5.293 @2020)
論文名:
Curcumin β-D-glucuronide modulates an autoimmune model of multiple sclerosis with altered gut microbiota in the ileum and feces
(クルクミンモノグルクロニド(CMG)投与は小腸と糞便の腸内フローラに異なる影響を及ぼし、多発性硬化症自己免疫モデルを改善する)
著 者:
尾村 誠一1*、Sundar Khadka1*、佐藤 文孝1*、西尾 和人2、掛谷 秀昭3、角田 郁生1
*筆頭著者
所 属:1近畿大学医学部微生物学講座、
    2近畿大学医学部ゲノム生物学講座、
    3京都大学大学院薬学研究科

【研究の詳細】
本研究では、多発性硬化症のモデルマウスを用いて、プロドラッグ型のクルクミンであるクルクミンモノグルクロニド(CMG)による腸内フローラの変化、および脳・脊髄の炎症、麻痺症状への影響を検証しました。
まず、多発性硬化症に類似した症状を発症したマウスへCMGを投与することで、症状が改善するかを検証しました。尾部や肢の麻痺状態について評価したところ、CMGの投与により麻痺の症状に改善傾向があることが確認できました。また、中枢神経系(脳と脊髄)への影響も評価したところ、こちらも炎症に改善傾向が見られました。
次に、CMGの投与による腸内の3つの部位(糞便、小腸内容物、小腸粘膜)における腸内フローラへの影響を評価しました。腸内フローラを構成する細菌を各部位について解析した結果、CMGの投与により、糞便と小腸内容物に関して細菌の構成が有意に変化していることが明らかになり、また小腸内容物と小腸粘膜のフローラは麻痺や脳・脊髄の炎症の程度と相関していることが明らかになりました。個々の細菌をみると、糞便中ではルミノコッカス・ブロミイ(Ruminococcus bromii)やブラウティア・(ルミノコッカス)・グナバス(Blautia [Ruminococcus] gnavus)など炎症の促進に寄与しうる短鎖脂肪酸を産出する細菌が減少し、また小腸内容物中ではツリシバクター(Turicibacter)属菌やアリスティペス・ファインゴールディイ(Alistipes finegoldii)などの炎症を促進することが報告されている細菌が減少しており、こうした細菌の減少が脳と脊髄での炎症の重症化を抑制している可能性が示されました。
これらのことから、CMGが腸内フローラを変化させ、脳・脊髄の炎症を抑制している可能性が示されました。

【今後の展望】
本研究により、プロドラッグ型クルクミンであるCMGが、多発性硬化症をはじめとする神経難病に対して効果がある可能性が示されました。クルクミンは食経験もある成分であることから、今後安全性の高い治療薬として、実用化にむけてさらに研究が進展することが期待されます。

【用語解説】
※1 プロドラッグ:体内で代謝されてから効果を発揮するように構造を変化させた化合物。高い活性をもつ化合物でも、投与後にすぐに分解され、目標の部位に届く頃には有効成分がほぼ残っていないことがある。そこで、体内の目標部位に到達してから活性をもつ化合物に変換され効果を発揮するように、化学的に修飾を施したもの。
※2 腸内フローラ:人間や動物の腸内には、約100兆個もの多種多様な細菌が住んでおり、それらが種類ごとに群生している様子を花畑(フローラ)に例えて「腸内フローラ」と呼ぶ。近年は、次世代シーケンサーの登場により、遺伝子をもとに細菌全体の解析が可能になり、健康と腸内フローラとの関係性などが明らかになっている。
※3 多発性硬化症:中枢神経系(脳・脊髄、視神経)の疾患で、視覚障害、感覚障害、運動障害、ふるえや疲労感など、様々な症状が見られる。中枢神経を覆う絶縁体の層(ミエリン)が何らかの原因で損傷し、中の神経が剥き出しになることで、神経伝達に障害が起こるようになり、様々な症状が発症する。

【関連リンク】
医学部 医学科 講師 尾村 誠一(オムラ セイイチ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2226-omura-seiichi.html
医学部 医学科 教授 角田 郁生(ツノダ イクオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1503-tsunoda-ikuo.html
医学部 医学科 教授 西尾 和人(ニシオ カズト)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/757-nishio-kazuto.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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