連合調べ 有期契約労働者の職場に対する不満 1位「給料が安い」2位「給料が上がらない」
~有期契約労働者に関する調査2017~
2013年に改正労働契約法が施行され、第18条では、同じ事業主で契約更新が繰り返されて通算5年を超えた有期契約労働者は、本人の申し出によって無期雇用として働けるとされており、2018年の4月1日から本格的に、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる権利を有する労働者が生じることとなります。そこで、日本労働組合総連合会(略称:連合、所在地:東京都千代田区、会長:神津里季生)は、本格的に無期労働契約への転換が始まる前に、有期契約労働者の改正労働契約法の認知状況や改正労働契約法についての考えを把握するため、2013年に行った調査に続き2回目となる「有期契約労働者に関する調査2017」を2017年4月21日~4月24日の4日間でインターネットリサーチにより実施し、全国の20歳~59歳の有期契約労働者(週20時間以上労働する民間企業の有期契約労働者)1,000名の有効サンプルを集計しました。(調査協力機関:ネットエイジア株式会社)
[調査結果]
改正労働契約法の認知状況
◆2013年4月施行の改正労働契約法
「無期労働契約への転換(第18条)」の内容まで知らない有期契約労働者が84%
「不合理な労働条件の禁止(第20条)」では内容まで知らない有期契約労働者が88%に
まず、全国の20歳~59歳の有期契約労働者(週20時間以上労働する民間企業の有期契約労働者)1,000名(全回答者)に、2013年の4月(一部は2012年8月)に施行された改正労働契約法の内容を説明したうえで、【無期労働契約への転換(第18条)】と【不合理な労働条件の禁止(第20条)】について聞きました。
【無期労働契約への転換(第18条)】については、「ルールの内容まで知っていた」は15.9%にとどまり、「ルールができたことは知っているが、内容までは知らなかった」が32.9%、「ルールができたことを知らなかった」が51.2%で、これら2つを合計した『内容を知らなかった(計)』は84.1%になりました。
雇用形態別に『内容を知らなかった(計)』をみると、契約社員では80.4%、パート・アルバイトでは89.1%、契約社員では78.2%でした。
【不合理な労働条件の禁止(第20条)】については、「ルールの内容まで知っていた」は12.3%となり、「ルールができたことは知っているが、内容までは知らなかった」が29.5%、「ルールができたことを知らなかった」が58.2%で、2つを合計した『内容を知らなかった(計)』は87.7%になりました。
雇用形態別に『内容を知らなかった(計)』をみると、契約社員では86.7%、パート・アルバイトでは91.4%、派遣社員では81.2%となり、いずれの雇用形態でも内容を知らなかった人が大多数となりました。
2013年9月(発表10月)にも有期雇用の契約社員、パート・アルバイトを対象に同じ内容で調査※1をしており、その結果と比較をしたところ、【無期労働契約への転換(第18条)】・【不合理な労働条件の禁止(第20条)】の認知度に大きな変化は見られず、施行から4年経った今でも周知不足という事実がわかりました。
※1 有期契約労働者に関する調査 https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20131024.pdf
◆改正労働契約法の認知経路 半数以上が「マスコミ」と回答、「勤務先からの説明」は3割半にとどまる
では、【無期労働契約への転換】や【不合理な労働条件の禁止】について知っていた人は、何から知ったのでしょうか。
【無期労働契約への転換(第18条)】と【不合理な労働条件の禁止(第20条)】のどちらか一方でもルールができたことを知っていた有期契約労働者(507名)に、ルールができたことやルールの内容についてどこで知ったか聞いたところ、「マスコミ(テレビや新聞報道など)」が最も多く50.7%、次いで、「勤務先からの説明」が35.9%、「インターネット(ホームページ、Facebook、Twitterなど)」が26.0%となり、勤務先からの説明で知った人よりマスコミの報道で知った人のほうが多い結果となりました。
雇用形態別にみると、派遣社員では「勤務先からの説明」が47.4%と「マスコミ(テレビや新聞報道など)」の45.5%と同程度の割合となりましたが、契約社員とパート・アルバイトでは「勤務先からの説明」はそれぞれ29.4%、31.9%と3割前後にとどまり、「マスコミ(テレビや新聞報道など)」がそれぞれ52.5%、53.4%と半数を上回りました。
改正労働契約法が施行されてからの労働契約の条件変更
◆2013年4月以降に「人事評価制度が導入された」16%
◆派遣社員の約2割が2013年4月以降に「新しい契約では契約期間や更新回数に上限が設けられた」と回答
続いて、全回答者(1,000名)に、改正労働契約法が施行された2013年4月以降の労働契約の条件変更などの状況について聞いたところ、「あった」との回答が最も多かったのは「人事評価制度が導入された」で16.3%、次いで、「これまでに契約期間や更新回数に上限がなかったが、新しい契約では上限が設けられた」が11.5%となりました。また、「これまでよりも短い期間での契約を求められた」(7.8%)や「雇止めがあった」(5.9%)、「派遣や請負など他の雇用形態に変更された」(5.3%)、「無期契約になった」(3.9%)でも「あった」との回答がみられました。
雇用形態別にみると、契約社員とパート・アルバイトでは「人事評価制度が導入された」がそれぞれ19.6%、18.3%で最も高くなっていましたが、派遣社員では「これまでに契約期間や更新回数に上限がなかったが、新しい契約では上限が設けられた」が17.9%で最も高くなりました。
労働契約法第18条(無期労働契約への転換/5年ルール)に対する意識
◆改正労働契約法「無期労働契約への転換(第18条)」に対する意識
「待遇が正社員と同等になるわけではないから意味が無い」は5割半が同意
そして、全回答者(1,000名)に、【無期労働契約への転換(第18条)】についての考えを聞いたところ、同意率(「非常にそう思う」と「ややそう思う」の合計)は、「契約期間が無期になるだけで待遇が正社員と同等になるわけではないから意味が無い」で最も高く54.5%、次いで、「無期契約に転換できる可能性があるのでモチベーションアップにつながる」が37.1%、「契約更新して働き続ける可能性が狭まる」が31.3%で続きました。4割近くの人がモチベーションのアップにつながるといった前向きな考えを持っていることがわかりましたが、無期契約になっても待遇が正社員並みになるわけではないから意味が無い、契約更新の可能性が狭まるなど悲観的な考えを持っている人が多いことがわかりました。
また、調査対象とした雇用形態が異なる※2ため、単純には比較できませんが、2013年調査と同意率を比較すると、「契約期間が無期になるだけで待遇が正社員と同等になるわけではないから意味が無い」(2013年68.7%→今回54.5%)や「無期契約に転換する人が発生することにより、有期契約労働者の給与など労働条件の悪化につながる」(2013年36.2%→今回27.3%)といった悲観的な考えに対する同意率において下降傾向がみられました。
※2 2013年は契約社員、パート・アルバイトを対象に調査し、2017年は調査対象に派遣社員を追加し調査した
労働契約法第20条(不合理な労働条件の禁止)の施行状況
◆労働条件で正社員と格差あり 制度はあるが「ボーナス支給」では7割強が対象外、「退職金支給」では9割弱
◆福利厚生でも正社員との格差 「食堂の利用」が対象になっていないケースが3割半
◆教育訓練や健康診断でも正社員との格差 「教育訓練」では5割が非対象、「健康診断」では3割強が非対象
2013年4月に施行された改正労働契約法では、【不合理な労働条件の禁止(第20条)】(有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルール)もポイントのひとつになっていましたが、有期契約労働者も職場にある制度や施設を利用できているのでしょうか。
まず、通勤手当やボーナス、退職金について聞いたところ、【通勤手当の支給】では39.2%が「対象になっていない」と回答し、【ボーナスの支給】では71.1%、【退職金の支給】では88.4%が「対象になっていない」と回答しました。ボーナスや退職金の支給で正社員と有期契約労働者の格差を抱えている職場は多く、通勤手当の支給でも格差を抱えている職場が少なくない様子が窺えました。
職場の労働組合有無別に「対象になっていない」と回答した人の割合をみると、【ボーナスの支給】では、労働組合がある人では58.9%だったのに対し、労働組合がない人では72.7%と13.8ポイントの開きがみられました。
次に、食堂や駐車場、休憩室など施設の利用について聞いたところ、「対象になっていない」との回答は、【食堂の利用】では35.9%、【駐車場の利用】では45.4%、【休憩室の利用】では16.9%となりました。食堂の利用など福利厚生でも正社員と有期契約労働者の格差を抱えている職場は少なくないようです。
また、慶弔休暇や教育訓練、健康診断についても聞いたところ、【慶弔休暇の取得】では44.9%が「対象になっていない」と回答し、【教育訓練】では51.0%が、【健康診断】では32.2%が「対象になっていない」と回答しました。休暇制度や教育訓練、健康診断でも正社員との格差がある職場が少なくない様子が窺えました。
職場の労働組合有無別に「対象になっていない」と回答した人の割合をみると、いずれの項目でも労働組合がある人のほうが「対象になっていない」人の割合は低く(【慶弔休暇の取得】ある人30.7%、ない人48.6%、【教育訓練】ある人40.0%、ない人58.3%、【健康診断】ある人21.2%、ない人35.0%)なりました。
労働基準法第15条(労働条件の明示)などの認知状況・施行状況
◆賃金、労働時間その他の労働条件の通知 「口頭でのみ通知された」6% 「通知されていない」8%
◆「有期契約労働者も一定の条件を満たせば育児休業取得が可能」 認知率は4割半にとどまる
ここまでは、改正労働契約法についてみてきましたが、労働基準法第15条(労働条件の明示)に関する質問も行いました。
まず、全回答者(1,000名)に、労働基準法第15条(労働条件の明示)に関する内容について知っていたかどうかを聞いたところ、【会社は、雇う際に、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を書面にして通知しなければいけないこと】では、「知っていた」が66.4%、「知らなかった」が33.6%となり、【会社は、雇う際に、労働者に対して、契約更新の有無(自動更新なのか、更新する場合があるのか、更新はないのかなど)を通知しなければいけないこと】では、「知っていた」が63.3%、「知らなかった」が36.7%となりました。“労働条件の明示”や“契約更新の有無の通知”について知っていた人は6割以上となりました。
また、現在の職場に雇われる際に、これらを文書によって通知されたか聞いたところ、【賃金、労働時間その他の労働条件の通知】では「文書で伝えられた」は75.4%、【契約更新の有無の通知】では「文書で伝えられた」は74.2%と、どちらも7割半は文書で通知されていることがわかりましたが、「口頭でのみ伝えられた」ケース(【賃金、労働時間その他の労働条件の通知】6.1%、【契約更新の有無の通知】8.6%、以下同順)や「文書でも口頭でも伝えられていない」ケース(7.6%、7.0%)もあることが明らかになりました。
さらに、【年次有給休暇の取得】や【育児休業の取得】、【妊娠や出産を理由とした雇止め等の不利益な取り扱いの禁止】についても聞いたところ、それぞれの認知率(「知っていた」)は、【年次有給休暇の取得】では76.4%、【育児休業の取得】では45.7%、【妊娠や出産を理由とした雇止め等の不利益な取り扱いの禁止】では60.1%となりました。年次有給休暇の取得に比べると、育児休業の取得や、妊娠や出産を理由とした雇止め等の不利益な取り扱いの禁止について知っている人は少ない様子が窺えました。
2013年調査と比較※3をすると、【育児休業の取得】の認知率は2013年39.7%→今回45.7%と上昇している結果となりました。
※3 2013年は契約社員、パート・アルバイトを対象に調査し、2017年は調査対象に派遣社員を追加し調査した点に留意が必要
働き方・職場の満足度
◆“不本意ながら有期契約で働くことに” 契約社員の5割半
◆正社員になれず有期契約で働いている人の約8割は働き方に「不満」、7割半が「正社員を希望」
◆現在の仕事にやりがいを「感じる」 5割半、現在の職場に「満足」 5割半
正社員になれず有期契約で働いている人では、やりがいを「感じない」6割強、現在の職場に「不満」も6割強
有期契約労働者は、現在の働き方や職場にどのくらい満足しているのでしょうか。
まず、全回答者(1,000名)に、【有期契約で働くことになった状況】を聞いたところ、『自ら進んで(に近い)』(「近い」と「やや近い」の合計、以下同様)が62.0%、『正社員になれなくて(に近い)』が38.0%となりました。
雇用形態別にみると、契約社員では、『自ら進んで(に近い)』が44.3%に対し、『正社員になれなくて(に近い)』が55.8%となり、不本意ながら契約社員として働いている人のほうが多いことがわかりました。
では、現在の働き方・雇用形態や今後の働き方・雇用形態については、どのように考えられているのでしょうか。
全回答者(1,000名)に、【現在の働き方・雇用形態の満足度】を聞いたところ、『満足(に近い)』が55.6%、『不満(に近い)』が44.4%となりました。
また、不本意ながら有期契約労働者として働いている人(正社員になれなくて有期契約労働者になっている人)についてみると、『満足(に近い)』が21.4%、『不満(に近い)』が78.7%となり、現在の働き方・雇用形態に不満を抱えている人が多い結果となりました。
次に、【今後の働き方・雇用形態の希望】を聞いたところ、『このままでよい(に近い)』が60.0%、『正社員になりたい(に近い)』が40.0%となりました。今後も現在の働き方・雇用形態でよいと考えている人が多いようです。
現在の満足度と同様、不本意ながら有期契約労働者として働いている人についてみると、『このままでよい(に近い)』が26.0%、『正社員になりたい(に近い)』が74.0%となり、正社員になりたいと考えている人のほうが多い結果となりました。
また、現在の仕事にやりがいを感じるかどうかや、職場の満足度についても聞きました。
全回答者(1,000名)に、【仕事のやりがい】について聞いたところ、『感じる(に近い)』が54.1%、『感じない(に近い)』が45.9%となり、【現在の職場の満足度】を聞いたところ、『満足(に近い)』が55.2%、『不満(に近い)』が44.8%となりました。
ここでも不本意ながら有期契約労働者として働いている人についてみると、【現在の仕事のやりがい】では『感じない(に近い)』(62.4%)のほうが高く、【現在の職場の満足度】では『不満(に近い)』(63.2%)のほうが高くなりました。不本意ながら有期契約労働者になった人では、仕事にやりがいを感じられていなかったり、現在の職場に不満を抱えていたりする人が多いようです。
◆有期契約労働者の職場に対する不満 1位「給料が安い」2位「給料が上がらない」
それでは、有期契約労働者が抱える職場の不満とは、どのような不満なのでしょうか。
全回答者(1,000名)に、現在の職場に対する不満を聞いたところ、「給料が安い」が最も多く43.4%、次いで、「給料が上がらない」が42.8%、「働きぶりが評価されない」が20.5%、「正社員がちゃんと働いていない」が19.9%で続きました。給料に対する不満を抱えている人が多いようです。
不本意ながら有期契約労働者として働いている人についてみると、「給料が安い」が59.5%(本意33.5%)、「給料が上がらない」が55.3%(本意35.2%)で自ら進んで有期契約労働者として働いている人より20ポイント以上高くなりました。不本意ながら有期契約で働いている人のほうが給料に対する不満を抱えているようです。
[本調査へのコメント]
(独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所副所長 荻野 登 氏)
無期転換ルールに基づく申し込み権が本格的に発生するまで一年を切るなか、連合調査によるとまだ半数の有期雇用労働者がこのルールを知らないままでいる。まず、この周知が残された期間での最大の課題になるのではないか。当機構が5月23日に発表した改正労働契約法に関する企業の対応状況についての調査(常用労働者10人以上を雇用する9639社を集計)で、企業の半数は、「改正内容まで知っている」としており、「改正されたことは知っている」を合わせると9割弱となる。この労使間の認知度のギャップを埋めることが労使および行政に求められる。
転換ルールを知った情報源を連合調査でみると、マスコミに次いで勤務先からの説明(35.9%)が続く。当機構調査では無期転換権の発生に係わる周知を行う予定の企業(実施済み含む)は半数超で、「行わない」は6.8%と少ないが、「未定・分からない」も35.1%ある。一方、行政への要望事項として他社の事例・取り組みを知りたいが4割にのぼる。対応を検討するために他社の経験・事例は非常に参考となる。連合や産別からの情報提供も有用だろう。
同企業調査で何らかの形で無期契約にする割合は約6割、通算5年を超えないようにする割合は8%程度と企業はおおむね無期転換に前向きな姿勢を示している。しかし、転換ルールの回避を意図した「雇い止め」が望ましくないことは、組合からも周知徹底する必要があるだろう。
一方、連合調査によると、有期契約労働者が対象外となっている割合が通勤手当で39.2%、ボーナスで71.1%、慶弔休暇で44.9%等となっている。全回答者に占める派遣労働者の割合が22.9%(全回答者1,000名のうち、派遣労働者は229名となっている)と高くなっている影響とも考えられるが、関心を集める政府の同一労働同一賃金のガイドライン案に先んじて、ここはまず労使が制度整備を進める分野ではないだろうか。