ソフトウエア技術者の能力には性別差がないことが明らかに 進路選択の妨げとなる先入観の打破に期待
近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)情報学科准教授の角田 雅照らの研究グループは、ソフトウエア技術者の能力と性別との関係について調査し、技術者がプログラムを理解する速度には性別による差がないことを明らかにしました。
IT人材の不足が問題となる中、本研究成果によって性別に関する先入観の影響を抑え、女子学生がIT技術者につながる進路を選択する可能性が高まることが期待されます。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)2月3日(水)午前0:00(日本時間)、電子情報通信学会が発行する論文誌「電子情報通信学会論文誌 D, Vol.J104-D No.5」にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●技術者の能力のうち、特にプログラムを理解する能力について、性別との関係を分析
●プログラムの理解時間と技術者の性別には関連がないことが判明
●性別に関する先入観を打破し、女子学生がIT技術者を目指すことを支援
【本件の背景】
近年、IT人材の不足が指摘されています。平成30年(2018年)の「IT人材白書」によると、約70%の企業で女性のIT人材が20%以下となっていることから、女性のIT技術者を増やすことが人材不足の解決の一助となると考えられます。女性のIT人材を増やすためには、科学技術が男性に向いているという先入観を排除し、女子学生の進路の選択肢を増やすことが重要であることから、定量的な証拠を示し、先入観の打破を目的として性別に着目して分析した研究が行われています。
【本件の内容】
ソフトウエアの運用コストの40~67%は保守であり、保守時にはプログラム理解が必要となるため、理解速度は技術者の重要な能力のひとつといえます。プログラムの理解には記憶力が必要とされる場合があり、従来研究において性別により記憶能力に違いがあると指摘されていることから、性別がプログラム理解速度に影響する可能性があると考えられます。一方で、記憶能力のプログラム理解への影響度は必ずしも明確ではありません。そこで、近畿大学理工学部と神戸大学の研究グループは、理解速度が記憶能力に影響されやすいプログラムを読む場合、性別により理解速度に差があるかを確かめました。
実験では、記憶能力の理解速度への影響度が異なる複数のプログラムを用意し、男女の被験者がプログラムを理解するために掛かった時間を計測しました。被験者は、同一大学・学科の情報科学を専攻する学部生16人(男性8人、女性8人)です。
その結果、男性グループと女性グループでは、プログラムを理解する速度に差がなく、また、記憶能力の理解速度への影響度が大きいプログラムの場合でも、理解速度には差がありませんでした。より詳細には、プログラムよって男性の方が1.2倍速い場合もあれば、女性の方が1.3倍速い場合もあるなど、どちらかが早いという傾向は見られませんでした。また、記憶能力の理解速度への影響度が大きいプログラムの場合、女性で1.5~2.5倍程度、男性で1.8~2.3倍程度の理解速度の低下が見られ、明確な差はありませんでした。従って、プログラミングの経験と教育水準、例えば教育を受けている大学が同等であるならば、対象プログラムの記憶力の必要性に関わらず、性別によるコード理解速度のアドバンテージはほとんどないと考えられます。
【今後の課題・展望】
先行研究では、女性のIT人材を増やすためには、科学技術が男性に向いているなどの先入観の影響を抑え、女子学生の進路の選択肢を増やすことが重要であると指摘されています。別の調査では、世界企業番付と言われる「フォーチュン1000」にランクインしている企業に勤務する女性の46%が、性別による能力に対する先入観が障壁となると答えています。本研究により、このような先入観を排除し、女子学生がIT技術者をめざす進路を選択する可能性が高まることが期待されます。
【論文掲載】
掲載誌:「電子情報通信学会論文誌 D, Vol.J104-D No.5」
(発行:電子情報通信学会)
論文名:性別に着目したソースコード理解速度の分析
著 者:近畿大学大学院総合理工学研究科博士前期2年 高塚 由利子
近畿大学大学院総合理工学研究科博士前期2年(当時)村上 優佳紗
近畿大学理工学部情報学科准教授 角田 雅照
神戸大学大学院システム情報学研究科准教授 中村 匡秀
【関連リンク】
理工学部 情報学科 准教授 角田 雅照(ツノダ マサテル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/469-tsunoda-masateru.html