月経前症候群(PMS)と腸内フローラの関連性を研究 PMS患者は特定の腸内細菌が減少していることを世界で初めて確認

近畿大学東洋医学研究所(大阪府大阪狭山市)所長 武田 卓を中心とする研究チームは、日本人女性を対象に、月経前症候群※1 (以下、PMS)と腸内フローラ※2 の関連性を研究し、抗うつ作用への関与が期待できる「酪酸産生菌」や脳内神経伝達物質を産み出す「GABA産生菌」が減少していることを世界で初めて確認しました。
本件に関する論文が、令和4年(2022年)5月28日(土)3:00(日本時間)に、アメリカの科学誌”PLOS ONE”にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●PMS患者における腸内フローラの特徴を明らかにした世界初の研究
●PMS患者の腸内フローラでは、抗うつ作用への関与が期待できる酪酸産生菌や脳内神経伝達物質を産み出すGABA産生菌が減少していることが明らかに
●本研究成果により、食事療法などの簡便で体への負担が少ないPMS新規治療法の開発に期待

【本件の背景】
PMSは、月経前の不快な精神・身体症状を特徴とし、女性のパフォーマンスを妨げることから、女性活躍促進が求められる今、注目されている疾患です。しかしながら、標準治療である「低用量ピル」や抗うつ薬である「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が一般的にあまり受け入れられていない現状もあり、十分な治療が行われておらず、簡便で体への負担が少ない治療法の開発が期待されています。
一方、腸内フローラは、様々な疾患との関連性が研究されており、新たな治療ターゲット候補として注目を集めています。うつ病等の精神疾患の分野でも、脳と腸内フローラの関連性が注目されています。PMSは、うつ病と多くの共通点が見られますが、その詳細な原因は明らかでなく、PMS患者における腸内フローラの検討はこれまで実施されていませんでした。

【本件の内容】
本研究では、PMS患者における腸内フローラの特徴を明らかにするため、中等度以上のPMS患者とPMS症状の自覚がない健常者を対象に調査を実施しました。それぞれの腸内フローラについて、次世代シーケンスメタゲノム解析※3 を実施したところ、以下の4点が明らかとなりました。
1.PMS患者と健常者は異なる腸内フローラを示すこと。
2.いくつかの腸内細菌が、PMS患者と健常者において、特徴的な分布を示すこと。
3.PMS症状の重症度といくつかの腸内細菌との相関性が認められたこと。
4.これらの特徴は、これまでのうつ病患者での報告とは異なるものであること。
今回の検討でPMSとの関連性が示唆された腸内細菌には、抗うつ作用が期待できる酪酸産生菌や、PMSの病態生理にも関連するとされる脳内神経伝達物質を産み出すGABA産生菌があります。PMS患者ではこれらの腸内細菌の減少が認められており、腸内細菌とPMS発症の関連性が推測されます。
今回の研究をきっかけとして、今後、PMS診断マーカーの開発や、食事療法、プロバイオティクス※4、プレバイオティクス※5 といった簡便で体への負担が少ない治療法の開発が期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:PLOS ONE(インパクトファクター:3.240 @2020)
論文名:
Characteristics of the gut microbiota in women with premenstrual symptoms: a cross-sectional study
(月経前症候群の女性における腸内細菌叢の特徴:横断的研究)
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0268466
著 者:近畿大学東洋医学研究所 所長 武田 卓

【研究の詳細】
令和元年(2019年)9月から令和2年(2020年)8月までに、重度なPMS症状による社会生活障害を自覚して産婦人科クリニックを受診した21名(PMDs群)と、中等度以上のPMS症状の自覚がなく健診等で受診した健常者22名(C群)を対象に、以下の検討を実施しました。PMS症状は、PMSの重症度を調べる評価票「premenstrual symptoms questionnaire (PSQ)」を用いて評価しました。また、便検体を用いて、次世代シーケンスメタゲノム解析を実施し、腸内フローラを解析しました。その結果、以下の4点が明らかとなりました。
1.多様性解析
PMDs群とC群の比較において、β多様性※6 に関して、両群間に有意差を認めました。
2.相対的存在比比較
PMDs群はC群に比べて、Butyricicoccus※7、Extibacter※7、Megasphaera※7、Parabacteroides※7 の率が低く、Anaerotaenia※7が高いことがわかりました。
3.群間比較解析
PMDs群ではAnaerotaenia、C群ではButyricoccus、Extibacter、Megasphaera、Parabacteroidesの割合が大きく、それぞれの群を特徴づけることがわかりました。
4.PMS症状の重症度と腸内細菌叢との関連
重回帰分析※8 の結果では、PMSの重症度はParabacteroidesおよびMegasphaeraの割合が大きいほど、程度が軽くなりました。

【研究助成】
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業により実施しました。

【用語解説】
※1 月経前症候群(PMS):月経前、3~10日のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経とともに減少または消失する。イライラ・おちこみ・不安感といった精神症状と、腹部膨満感・乳房症状といった身体症状が認められる。
※2 腸内フローラ(腸内細菌叢):人の腸管内には、個数で100兆から1,000兆個、種類は約1,000種類の腸内細菌が存在するとされており、「もう一つの臓器」として、宿主と腸管上皮を介して、免疫・代謝・内分泌系等との複雑な相互作用を示し、巧妙な生体バランスを維持している。次世代シーケンスメタゲノム解析により、多くの疾患に特徴的な腸内細菌のパターンが明らかになりつつある。
※3 次世代シーケンスメタゲノム解析:多種類の細菌のDNAを一度にまるごと解析できる新しい技術。腸内フローラの解析に汎用される方法。
※4 プロバイオティクス:腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える微生物のこと。乳酸菌やビフィズス菌など。
※5 プレバイオティクス:善玉菌のエサとなって、善玉菌を増やす働きを持つ食品成分のこと。オリゴ糖類や食物繊維類など。
※6 β多様性:ある2つのサンプル間の多様性の違いを表す指標。
※7 Butyricoccus、Extibacter、Megasphaera、Parabacteroides、Anaerotaenia:いずれも腸内細菌の一種。
※8 重回帰分析:ある結果の変動値(ここでは、PMSの重症度)に2つ以上の要素(ここでは、腸内細菌)がどのくらい影響するかを検討する統計手法。

【関連リンク】
東洋医学研究所 教授 武田 卓(タケダ タカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/818-takeda-takashi.html

近畿大学東洋医学研究所
https://www.med.kindai.ac.jp/toyo/


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