世界初! 腸内フローラによる前立腺がんの増殖メカニズムを解明 前立腺がんの予防及び新たな治療へつながることに期待

高脂肪食により肥満になったマウス
高脂肪食により肥満になったマウス

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)泌尿器科学教室准教授の藤田 和利らの研究チームは、大阪大学大学院医学系研究科(大阪府吹田市)との共同研究により、腸内フローラ※1 が作り出す「短鎖脂肪酸」※2 という物質が、前立腺がんの増殖を引き起こすことを世界で初めて明らかにしました。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)5月27日(木)に、がんに特化した国際雑誌"Cancer Research"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●高脂肪食による前立腺がんの進行に腸内フローラが関与することを、前立腺がんマウスモデルにて世界で初めて証明
●腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸が、血中のホルモン「IGF-1」※3 を増加させ、前立腺がんの増殖を促進することを解明
●ヒトでも同様のメカニズムで前立腺がんが増殖している可能性が示唆され、予防や新たな治療へつながることが期待される

【本件の背景】
前立腺がんは、近年高齢化とともに発症数が増加し、国内では男性で最も多いがんとなりました。食生活と密接に関連するがんでもあり、日本における近年の罹患率上昇は、高脂肪食を特徴とする欧米型食生活の普及が一因であると言われています。一方、腸内フローラやその代謝産物は、大腸がんなどの様々な疾患に関与することが最近報告されており、新たな治療ターゲットとして脚光を浴びています。
前立腺がん患者は特異な腸内フローラを持つことが報告されており、前立腺がんとの関連が示唆されてきましたが、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。(引用論文1)
本研究チームではこれまでに、前立腺がんモデルマウスに高脂肪食を投与して肥満になると、前立腺がん増殖が促進されることを報告してきました。(引用論文2)
(引用論文)
1.Metabolic Biosynthesis Pathways Identified from Fecal Microbiome Associated with Prostate Cancer.(https://doi.org/10.1016/j.eururo.2018.06.033
2.High-Fat Diet-Induced Inflammation Accelerates Prostate Cancer Growth via IL6 Signaling.(DOI:10.1158/1078-0432.CCR-18-0106 Published September 2018)

【本件の内容】
研究チームは今回の研究で、高脂肪食マウスに抗生物質を投与して腸内フローラを変化させると、前立腺がんの増殖が抑制されることを発見しました。
マウスに抗生物質を投与すると、短鎖脂肪酸を作る腸内細菌が減少し、便中の短鎖脂肪酸量も減少します。それが宿主であるマウスに作用し、血中と前立腺がん中のホルモン「IGF-1」が低下しました。一方、これらのマウスに短鎖脂肪酸を補充すると、血中のIGF-1は増加し、前立腺がんの増殖が促進されました。これによって、腸内細菌の産生する短鎖脂肪酸が、IGF-1を介して前立腺がん増殖を促進することが明らかになりました。
また、肥満患者の前立腺全摘標本を用いて免疫組織化学染色によりIGF-1の発現を調べたところ、ヒトでも肥満患者の前立腺がん組織で非肥満患者と比べてIGF-1が増加しており、マウスと同様のメカニズムが存在することが示唆されました。
本研究成果は、腸内フローラをターゲットとした、前立腺がんの新規予防法・治療法の開発につながると期待されます。

(図)前立腺がん増殖促進の仕組み
(図)前立腺がん増殖促進の仕組み

抗生剤や高脂肪食により腸内フローラが変化すると、細菌の代謝産物の短鎖脂肪酸(SCFA)が変化する。SCFAが血中に入り、肝臓などからIGF-1の産生を促進させ、前立腺癌細胞に作用してMAPK及びPI3Kシグナル経路を介して、前立腺がん細胞の増殖がおこる。

【論文掲載】
掲載誌:Cancer Research(インパクトファクター:9.727@2020)
論文名:
Gut microbiota-derived short-chain fatty acids promote prostate cancer growth via IGF-1 signaling
(腸内細菌叢由来の短鎖脂肪酸がIGF-1シグナルを介して前立腺癌増殖を促進する)
著 者:
松下 慎1, 藤田 和利1,2, 林 拓自1, 香山 尚子3,4, 元岡 大祐4, 長谷 拓明5, 神宮司 健太郎5, 山道 岳1, 弓場 覚1, 冨山 栄介1, 洪 陽子1, 林 裕次郎1, 中野 剛佑1, 王 聡1, 石津 谷祐1, 加藤 大悟1, 波多野 浩二1, 河嶋 厚成1, 氏家 剛1, 植村 元秀1, 今村 亮一1, Maria Del Carmen Rodriguez Pena6, Jennifer B Gordetsky6, George J Netto6, 辻川 和丈5, 中村 昇太4, 竹田 潔3,4, 野々村 祝夫1
※ 責任著者:藤田 和利
所 属:
1.大阪大学大学院医学系研究科泌尿器科学
2.近畿大学医学部泌尿器科学教室
3.大阪大学大学院医学系研究科免疫制御学
4.大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター病原体同定研究グループ
5.大阪大学大学院薬学研究科細胞生理学分野
6.アラバマ大学バーミンガム校病理学

【用語解説】
※1 腸内フローラ(腸内細菌叢):ヒトの腸内に40兆もの細菌が形成する細菌叢。次世代シークエンサーの登場により遺伝子を基にした細菌叢全体の解析が可能になったことで、飛躍的に理解が深まっている。
※2 短鎖脂肪酸:Short Chain Fatty Acid(SCFA)。酪酸、酢酸、プロピオン酸など炭素が2-4個の脂肪酸。大腸で腸内細菌により産生され、大腸癌の予防効果や糖尿病や肥満の予防効果が報告されている。
※3 IGF-1:Insulin-like growth factor-1(インスリン様成長因子-1)。成長ホルモンにより肝臓や筋肉などで産生され、体の成長に重要な役割を果たすホルモン。

【関連リンク】
医学部 医学科 准教授 藤田 和利(フジタ カズトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2406-fujita-kazutoshi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/