世界初!独自技術でエネルギー効率の高い光情報伝送方式を実証 消費電力削減や地域の情報格差解消に繋がる研究成果

2023-12-20 14:00
(図)独自技術で拡張した受信器の構成と復調前後の光信号

近畿大学産業理工学部(福岡県飯塚市)電気電子工学科は、次世代の情報通信インフラが主流となる「Beyond 5G/6G時代」を見据え、超高速光ファイバアクセスネットワーク技術の研究に取り組んでいます。ICTシステムのエネルギー消費削減の必要性が高まるなか、情報通信のインフラ技術として世界で広く使われている「ディジタルコヒーレント光通信用受信器※1」の復調機能※2 を独自技術で拡張し、エネルギー効率※3 が条件次第で2倍になる通信品質に優れた情報伝送を実証しました。
現在、世界で消費されている光ファイバアクセスシステムのエネルギーは莫大であり、本研究成果によって消費電力削減への貢献が期待されます。また、受信器の復調性能が上がることで情報の伝送可能距離が延長され、地域の情報格差の解消にも繋がると期待されます。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)11月15日(水)に、光通信工学を含む光波工学分野のトップジャーナルである、米国電気電子学会と米国光学会の共同学術誌"Journal of Lightwave Technology(ジャーナル オブ ライトウェーブ テクノロジー)"Early Accessサイトに掲載されました。

【本件のポイント】
●時間領域単一搬送波インデックス変調※4 信号の復調に世界で初めて成功
●情報通信のインフラ技術となり得る、エネルギー効率の高い光情報伝送方式を実証
●消費電力削減や地域の情報格差解消に繋がる可能性のある研究成果

【本件の背景】
光ファイバアクセスネットワークシステムは、日本勢が世界をリードして開発し、約20年前に世界に先駆けて日本国内で商用サービス化されました。WiFiや携帯電話サービスがブロードバンド通信の主流となっている現在でも、光ファイバアクセスネットワークシステムは、世界中で通信インフラの屋台骨となっています。一方、ICT需要の高まりとともに、ICTシステムのエネルギー消費削減が重要な社会課題になっています。実際、「第6次エネルギー基本計画」(令和3年(2021年)10月22日閣議決定)においても、エネルギー消費の効率化・グリーン化とディジタル化は両輪として進めていく必要があるとされています。
本学では、令和4年度(2022年度)から、総務省「グリーン社会に資する先端光伝送技術の研究開発(JMPI00316)」事業の一部を受託し、Beyond 5G/6G時代を見据えた次世代の超高速光ファイバアクセスネットワーク技術に関する教育研究活動を実施しています。

【本件の内容】
WiFiで接続したパソコンやスマートフォンから送信された無線信号は、近くのアンテナ基地局で光信号に変換されて光ファイバアクセスシステムに送り出されます。光信号は、レーザ光源から出力された光波(周波数 約200兆ヘルツ)の振幅(強さ)と位相(波の振動のタイミング)の変化で表現され、石英ガラスを素材とする光ファイバを伝搬して遠方の受信器に送られます。光信号をより遠方に届けるには、受信器の受信性能を向上させ、弱い光でも正しく信号を復調できる技術の実現が鍵になります。
今回、近畿大学の研究チームは、同じ送信情報量に対して必要になる光波エネルギーを削減できる光信号生成方法(時間領域単一搬送波インデックス変調方式)を採用し、さらに受信回路の構造を工夫しました。これにより、伝送する情報量を基本伝送レート※5 から半減させた場合に、従来方式と同一の伝送条件で光波エネルギーを4分の1に削減させても、符号誤り率※6 が10万分の1と通信品質を維持でき、エネルギー効率が2倍になる優れた情報伝送を実証しました。
今回採用した時間領域単一搬送波インデックス変調は、8つの時間スロットを1セットとする時間フレームにおいて1つの時間スロットのみに光波を点灯させ、且つ光波の位相を2種類に変化させてディジタル情報符号を伝送する「時間領域単一搬送波(8,1,二相位相シフトキーイング)インデックス光変調信号」という方式を採用し、光波の平均エネルギーに対してピークエネルギーが高くなるように工夫しました。ここで、時間フレームの中で光波を点灯させるタイムスロットや光波の位相は、送ろうとするディジタル情報符号に対応して変化させます。一方、受信器は、光波の点灯タイミングと光波の位相の変化を読み取ることで、送信器から送り出された光信号を復調します。
近畿大学の研究チームは、光波の点灯タイミングと光波の位相の変化を正確に読み取ることを可能にする2ステージ復号アーキテクチャ受信回路※7を独自開発し、光ファイバ通信工学分野と無線通信工学分野を通じて世界初となる方式で、エネルギー効率の高い情報伝送方式を実証しました。

【論文概要】
掲載誌:Journal of Lightwave Technology(インパクトファクター:4.439@2022-2023)
論文名:
Time-Domain Single Carrier Index Modulation for Elastic Optical Access Links
(弾力性のある光アクセスネットワーク用時間領域単一搬送波インデックス変調方式)
著者 :今宿亙1*、青木大地2、山家友希3、山本健介3、高橋俊亮3 *責任著者
所属 :1 近畿大学産業理工学部、2 近畿大学大学院産業理工学研究科、3 近畿大学産業理工学部(当時)
URL :https://ieeexplore.ieee.org/xpl/RecentIssue.jsp?punumber=50

【本件の詳細】
将来の光ファイバアクセスネットワークシステムは、赤外光(周波数約200兆ヘルツ)の光波パルス位相に情報を載せる「コヒーレント光通信方式」の採用が検討されています。そのため、受信器においては、着信した光波パルス群に載せられた情報を正しく抽出するために、まず光波パルス位相を正しく推定し、その上で受信情報の内容を判定する必要があります。受信情報の判定手段として、受信器に設置される局発光源と受信情報の内容を正しく判定するためのディジタル信号プロセッサ(DSP)が必要となります。今回、研究チームは、このDSPに実装する2ステージ復号アーキテクチャ受信回路を独自開発し、光波の点灯タイミングと光波の位相の変化を読み取ることで、送信器から送り出された光信号を正確に復調できるようにしました。
実証実験は、195兆ヘルツの赤外光レーザ光源と20kmの石英ガラス光ファイバ、独自開発の受信器を用いて行われました。また、毎秒25億サイクルの時間ロットを定義し、8つの時間スロットを1セットとする時間フレームにおいて1つの時間スロットのみに光波を点灯させ、且つ2種類の光波の位相を変化させながら情報伝送を行いました。これを「時間領域単一搬送波(8,1,二相位相シフトキーイング)インデックス光変調方式」と呼びます。
研究チームが開発したソフトウェア実装型DSPを動作させた結果、時間領域単一搬送波(8,1,二相位相シフトキーイング)インデックス光変調信号は、基本伝送レートが25億ビット/秒である二相位相シフトキーイング光変調信号に対して、情報伝送レートが半減するものの、受信器で10万分の1の符号誤り率を維持できる受信感度は4倍向上し、1bitあたりの情報伝送に必要となるエネルギーを半減できることを確認しました。
学術的に、今回の時間領域単一搬送波インデックス変調方式の実証は、光ファイバ通信工学分野と無線通信工学分野を通じて世界初の成果です。社会的には、前述のような高い感度を実現できる受信器を有するシステムを採用すると、光アクセスネットワークシステムの通信速度が最大性能から半減する条件になるものの、通信回線としての接続性を確保できる伝送可能距離を最大で20km程度長延化可能(注1であることを示唆しています。これにより、過疎地域等の情報格差(ディジタルディバイド)問題の解消に貢献できる可能性があります。
あるいは、通信トラフィックが少なく且つ短距離伝送の条件下においては、受信用局発光源の光エネルギーを4分の1に低減させて運用することも可能であることを示唆しています。光源駆動エネルギーは光エネルギーのほぼ二乗で低減できることを勘案すると、光アクセスネットワークシステム全体のエネルギー消費は、20%近く削減できる可能性があります(注2。
世界中で365日24時間稼働を続ける光ファイバアクセスシステムのエネルギー消費量は莫大であり、日本国内でも全電力需要の0.1%前後を消費していると独自に試算しています。本研究成果が国際標準技術として採択され、日本全国に適用された場合、電力費削減効果だけでも年間数十億円規模の経済効果があると試算(注3しています。

注1:長延化可能な距離は、光ファイバ伝送路の施工や経年劣化の状態に依存する。
注2:実用システムにおける局発光源の駆動にかかるエネルギー消費量の比率は、DSP等周辺デバイスの電力消費量との兼ね合いで、試算値から乖離する可能性がある。
注3:試算では空調電力の削減効果は含めていない。

【今後の予定】
伝送可能距離の長延化とエネルギー消費削減の実証実験を進めていきます。また並行して、国際標準化仕様への採択に必要となる技術の開発を進めていきます。例えば、安定動作条件の拡張を図り、低価格な光電子部品で受信器を構成できる復調アルゴリズムを開発します。

【研究支援】
本研究は、総務省「グリーン社会に資する先端光伝送技術の研究開発 課題II 大容量・高多重光アクセス網伝送技術(JMPI00316)」事業の一部を受託して行われました。

【用語解説】
※1 ディジタルコヒーレント光通信用受信器:受信器のディジタル信号処理により光波の位相を復調させる光通信用受信器で、光信号の光波位相は受信器の局発レーザ光源と干渉させて光位相を推定する。
※2 復調機能:送信器で光波に乗せ換えられた信号を復元する機能。
※3 エネルギー効率:情報伝送レート(bit/秒)を光信号電力(W)で除算した指標値。
※4 時間領域単一搬送波インデックス変調:送信信号を、単一光波の挿入時間スロットと光波の位相差に表現し直して光信号を生成する方法。
※5 基本伝送レート:1秒間あたりに定義するタイムスロット数と、光波の振幅(強度)と位相(振動タイミング)変化の種別数で決まる情報伝送レート。二相位相シフトキーイング光変調方式を基準とする本実証実験の条件下における基本伝送レートは25億ビット/秒。
※6 符号誤り率:送信ディジタル符号(1または0)を受信器において誤って判定する確率。
※7 2ステージ復号アーキテクチャ受信回路:光波の点灯タイミングを判定し、その上で光波の位相の変化を判定する、2段階符号判定機能を備えた受信回路。

【関連リンク】
産業理工学部 電気電子工学科 教授 今宿亙(イマジュクワタル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1495-imajuku-wataru.html

産業理工学部
https://www.kindai.ac.jp/hose/

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