コロナ禍で妊婦の6人に1人が心理的苦痛を感じていることが判明 感染症への恐怖感だけでなく孤独感が関連

近畿大学東洋医学研究所(大阪府大阪狭山市)所長 武田 卓を中心とする研究チームは、日本の妊婦が、深刻な心理的苦痛※1(Serious Psychological Distress、以下SPD)を高率に感じており、その原因として感染症への恐怖感だけでなく、孤独感が関連していることを明らかにしました。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)11月11日(木)4:00(日本時間)に、女性ヘルスケア領域のトップレベルのジャーナルである"International journal of women’s health"にオンライン掲載されました。なお、本研究は、「"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」の一環として実施されました。

【本件のポイント】
●全国の妊婦1,022人に、心理的苦痛と孤独感の関連についてWEB調査を実施
●令和2年(2020年)10月の先行研究と比較し、心理的苦痛を示す者の割合が約3倍に増悪
●「感染症への恐怖感」「孤独感」が、SPDのリスク因子となることが判明

【本件の背景】
新型コロナウイルス感染症は、世界中の人々の身体面・心理面に大きな影響を及ぼしています。その中でも妊婦は、感染した場合に胎児・新生児への影響も懸念されるため、心理的ストレスが非常に大きいと想定されます。また、孤独感は心身へ悪影響を及ぼすことが知られており、高齢化社会や社会不適合と関連して世界的な問題となっていますが、我が国においては、少子化や核家族化等の社会的変化により、妊婦が孤立しやすいと指摘されています。さらに、感染予防による社会活動の制限によって、妊婦の孤独感は以前よりも増していると想定されます。しかし、これまで妊婦における心理的苦痛と新型コロナウイルス感染症に対する恐怖感、孤独感の関連は明らかではありませんでした。

【本件の内容】
今回の研究では、心理的苦痛の重症度と孤独感との関連性を明らかにするため、調査を実施しました。令和3年(2021年)6月~7月に、妊娠女性1,022人を対象として調査したところ、(1)16.5%(169人)がSPD症状を示すこと、(2)心理的苦痛は、東日本大震災直後や令和2年(2020年)10月の先行研究の調査結果と比較して増悪したこと、(3)SPDのリスク因子としては、若年者、流産・中絶既往、非雇用に加え、新型コロナウイルス感染症への恐怖感だけでなく、孤独感があげられること、以上3点が明らかとなりました。
コロナ禍における心理的ストレスについて、精神面への影響は注目されるようになってきましたが、妊婦の孤独感との関連性はこれまで検討されていませんでした。パンデミック初期の検討からは、孤独感と自殺念慮※2 との関連性が報告されており、深刻な心理的苦痛は自殺の明らかなリスクとなります。さらに、妊娠中のストレスは、産科合併症の増加や子供の発達に悪影響を及ぼすことが知られています。妊婦は特にストレスに対して脆弱であることを考えると、今回の調査で明らかとなった、高率のSPDや持続するコロナ禍での心理的苦痛の急激な増悪に対して、医療従事者や保健関係者は特別な注意をはらう必要があります。

【論文掲載】
掲載誌:
International journal of women’s health
(インパクトファクター:2.773@2020)
論文名:
Association between serious psychological distress and loneliness during the COVID-19 pandemic: A cross-sectional study with pregnant Japanese women
(COVID-19パンデミック時の深刻な心理的苦痛と孤独感の関連:日本の妊娠女性を対象とした横断的研究)
著者:
近畿大学東洋医学研究所 所長 武田 卓

【研究の詳細】
新型コロナウイルス感染症デルタ株による第5波が到来していた令和3年(2021年)6月1日~7月20日に、妊婦1,022人を対象として、心理的苦痛、新型コロナウイルス恐怖尺度※3 、孤独感尺度※4 を評価するWEB調査を実施しました。被験者は全国の産婦人科医療機関で利用されている外来予約アプリ「アットリンク」(株式会社オフショア)を利用して募りました。
データ解析の結果、SPDを示す例が16.5%(169人)認められました。この割合は、東日本大震災直後の宮城県の妊婦(4.9%)よりも有意に高い結果でした。また、心理的苦痛を示す者の割合は37.7%(385人)と、令和2年(2020年)10月に実施された全国の妊婦を対象とした先行研究の結果(13.9%)と比較しても、有意に高くなりました。さらに、「若年者」、「流産・中絶既往」、「非雇用」に加えて、「コロナ感染症への恐怖感」「孤独感」がそれぞれ独立して、SPDのリスク因子となることが明らかとなりました。

【用語解説】
※1 心理的苦痛:外的なストレスと、ストレスに対する脆弱性により、心理的苦痛が引き起こされ、うつや不安のリスクを増大させます。K6(米国の Kesslerらによって、うつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的として開発された調査票)が広く評価に使用されており、本研究でも使用しました。13点以上が、SPDとして定義されます。

※2 自殺念慮:死にたい気持ち。自殺願望。

※3 新型コロナウイルス恐怖尺度:FCV-19S(Ahorsu DKらが開発した、新型コロナウイルスに対する恐怖感を定量化する調査票)を用いて評価しました。

※4 孤独感尺度:UCLA 孤独感尺度(第3版)短縮版3項目(Russellが開発した白記式孤独感尺度の改訂第3版)を用いて評価しました。

【関連リンク】
東洋医学研究所 教授 武田 卓(タケダ タカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/818-takeda-takashi.html

近畿大学東洋医学研究所
https://www.med.kindai.ac.jp/toyo/


AIが記事を作成しています