世界初!イルカに触れずに年齢を推定する方法を開発 野生ミナミハンドウイルカの生態解明と保全に繋がる研究成果

老齢なミナミハンドウイルカの腹部の斑点模様の例 写真提供:御蔵島観光協会
老齢なミナミハンドウイルカの腹部の斑点模様の例 写真提供:御蔵島観光協会

近畿大学農学部水産学科(奈良県奈良市)講師 酒井 麻衣、近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)修士修了生(現:三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程)八木 原風(やぎ げんふう)、御蔵島観光協会 小木万布(こぎ かずのぶ)の研究グループは、野生ミナミハンドウイルカの腹部に形成される斑点模様の量を観察することで、年齢を推定する方法を世界で初めて開発しました。イルカに触れることなく水中観察のみで、年齢を推定することが可能になり、本種の保全や生活史の研究に貢献することが期待されます。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)1月31日(火)に、海棲哺乳類学の国際誌"Marine Mammal Science"に掲載されました。

【本件のポイント】
●世界で初めて、野生のイルカに触れずに腹部の斑点模様から年齢を推定する方法を開発
●水中観察のみで年齢が推定でき、低コストかつ野生個体への影響を最小限にすることが可能
●伊豆諸島御蔵島のミナミハンドウイルカ個体群について、年齢不明であった個体の64%で年齢の推定に成功

【本件の背景】
年齢は、生物の生活史の解明や年齢別の個体数分布の把握など、生態・保全研究において重要な情報です。これまでイルカの年齢は、歯の断面に形成される層を数える方法で推定されてきました。しかし、生きている個体から歯を採取することは現実的ではなく、野生イルカの年齢を把握する方法としては、個体を毎年識別し、出生からの年齢を数える方法がとられています。
本研究のフィールドである伊豆諸島の御蔵島でも、識別による年齢の把握が実施されていますが、平成6年(1994年)からの調査であるため、それ以前に生まれた個体については年齢がわからず、野生個体の年齢を推定する新たな方法が求められていました。
本研究チームは、先行研究「野生ミナミハンドウイルカの斑点パターンの年齢依存的な変化」※ において、ミナミハンドウイルカの腹部に現れる斑点模様が、規則性を持ち成長と共に出現することを明らかにしました。本研究ではその知見をもとに、斑点の出現度合いから年齢を予測する式の作成に取り組みました。
※ 先行研究「野生ミナミハンドウイルカの斑点パターンの年齢依存的な変化」
https://doi.org/10.1111/mms.12845(論文掲載)
https://newscast.jp/news/5374302(プレスリリース)

【本件の内容】
本研究では、イルカの体を5つの部位に分け、それぞれの部位の斑点の出現度合いを3段階で評価しました。さらに、数値でない情報を数値に変換して統計解析することを可能とする「数量化理論」という解析方法を用いて、年齢と斑点の関係式を作成することに成功しました。これにより、水中観察カメラに写るイルカの体表面を観察するだけで、年齢を推定することが可能となりました。従来の年齢推定手法とは異なり、イルカに全く触れることがないため、野生個体への影響を最小限に抑えてデータを得ることができます。また、斑点の出現度合いを目測して評価するため、特殊な技術やソフトを必要とせず、現場で誰でも調査できる簡便さも本手法の強みです。
本研究による予測式は±2.5歳程度の精度を実現しており、ミナミハンドウイルカの寿命が45~50年程度であることに鑑みると、生活史や保全研究に十分使用可能です。実際に本手法を用いて、御蔵島周辺に生息する年齢不明の89個体について年齢推定に成功しました。これにより、御蔵島周辺でこれまでに発見されたイルカの内、85%以上の年齢が明らかとなりました。特に、これまで年齢に関する情報が全くなかった、平成6年(1994年)以前に生まれた比較的老齢な個体の年齢を得ることができました。
ある地域に住む集団を構成する個体の年齢情報が85%以上収集されている例は非常に稀であり、本研究成果はミナミハンドウイルカの一生を通した生態の解明に繋がるものです。今後、年齢ごとの死亡率などが明らかになれば、個体群の絶滅のリスクを検討することもできるようになります。

年齢と斑点の関係式の例 各エリアの斑点の密度に応じたスコアと定数の合算により推定年齢が得られる。
年齢と斑点の関係式の例 各エリアの斑点の密度に応じたスコアと定数の合算により推定年齢が得られる。

【論文概要】
掲載誌 :Marine Mammal Science(インパクトファクター:2.337@2021)
論文名 :Noninvasive age estimation for wild Indo-Pacific bottlenose dolphin (Tursiops aduncus)using speckle appearance based on Quantification-theory model I analysis
(数量化I類による斑点模様を利用した野生ミナミハンドウイルカの非侵襲的な年齢推定手法)
著者  :八木 原風1,2、小木 万布3、酒井 麻衣2,※
所属  :1 三重大学大学院生物資源学研究科生物圏生命科学専攻、2 近畿大学農学部水産学科海棲哺乳類学研究室、3 御蔵島観光協会
※ 責任著者
論文掲載:https://doi.org/10.1111/mms.12999
DOI  :10.1111/mms.12999

【研究者コメント】
氏名  :酒井 麻衣(さかい まい)
所属  :近畿大学農学部 水産学科
職位  :講師
学位  :博士(理学)
コメント:泳ぎ回る野生のイルカを水中で撮影した映像から、斑点模様の出ている程度を腹部のエリアごとに判定し、推定式にあてはめることで、イルカの年齢を推定する方法を開発しました。触れることなく調査できるためイルカへの影響が少なく、斑点模様の出ている程度の判別は誰にでもできる簡単な方法です。対象とした伊豆諸島御蔵島の個体群は25年以上にわたり調査されてきましたが、本種の寿命は40年から50年と言われており、一生を追うことが難しいです。私たちが開発した方法によって、長寿のイルカの年齢を知ることができ、イルカの一生を明らかにする有力な情報が得られます。今後、この方法を用いてイルカの生活史を解明し、イルカの保全にも役立てていきたいと思います。

【関連リンク】
農学部 水産学科 講師 酒井 麻衣(サカイ マイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1358-sakai-mai.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/


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