国内バイオディーゼル燃料製造事業 現状打開の糸口を探る! 生産コスト面における限界性を明らかに
【ポイント】
●バイオディーゼル燃料の国内製造事業が競合する化石燃料(軽油)との価格競争に敗れ、継続困難の窮地に!
●通常のディーゼル燃料(軽油)に対するバイオディーゼル燃料の価格競争力を独自に評価
●炭素税導入やバイオディーゼル燃料への税金引き下げが現状打開の糸口に!
【概要】
九州大学大学院経済学府卒業生の緒方 鞠さん、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の中石 知晃学術研究員、近畿大学産業理工学部の高藪 広隆助教、福岡大学経済学部の江口 昌伍准教授、そして九州大学大学院経済学研究院の加河 茂美主幹教授らの研究グループは、生産理論(経済学)に数理最適化モデルを応用した独自の研究フレームワークに基づき、国内のバイオディーゼル燃料製造事業者の生産コスト面における限界性を明らかにしました。
使用済みの天ぷら油とメタノールを化学反応させて製造される「バイオディーゼル燃料※1」は、トラックや重機などで軽油の代わりに利用できる貴重な「カーボンニュートラル※2 燃料」の一つです。物流の持続可能性を追求する上で重要な役割が期待されるバイオディーゼル燃料ですが、現在その製造事業者の多くが、競合する化石燃料(軽油)との価格競争に敗れ、事業継続困難の窮地に立たされています。
この点を踏まえ、同研究グループは、バイオディーゼル燃料の国内製造事業者(35社)の生産パフォーマンスを調査分析し、各事業者が個別の企業努力(生産規模拡大や生産技術向上)によって削減可能なバイオディーゼル燃料の生産コストを、経済・経営学的な評価手法を基に独自に推計しました(図)。推計結果によると、今後国内事業者が可能な限りの企業努力を重ねたとしても、バイオディーゼル燃料の生産コストは、現状の107円/ℓ程度から平均で3.5円/ℓ程度しか下がりません。競合の軽油燃料の平均価格が81円/ℓ(税抜き、調査時点)であることを踏まえると、両者の価格差は一目瞭然です。
本研究では、「バイオディーゼル燃料の生産コストは通常の軽油に比べて高く、価格競争では太刀打ちできない。炭素税の導入やバイオディーゼル燃料への税金の引き下げ、優秀な製造事業者を対象としたドラスティックな生産(技術開発)支援等が現状打開への糸口となる。」と結論づけています。
本研究成果は、2023年1月14日(英国時間)にJournal of Environmental Management誌(2021 Impact Factor: 8.91)に掲載されました。
【用語解説】
※1 バイオディーゼル燃料
バイオディーゼル燃料(Bio Diesel Fuel: BDF)とは、植物油から作られるディーゼル燃料のことです。トラックや重機などで通常のディーゼル燃料(軽油)の代わりに使用することができます。日本では主に使用済み天ぷら油(廃食油)とメタノールを化学反応させることで作られます。通常のディーゼル燃料に比べ、(1)カーボンニュートラルな燃料である、(2)食品ロス削減に貢献できる、(3)排気ガスがクリーン、(4)エネルギー自給率向上に貢献できる等の様々なメリットがあります。
※2 カーボンニュートラル
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。バイオディーゼル燃料は、大気中に存在した二酸化炭素(CO2)を吸収してできた植物油を原料とするため、「吸収したCO2-燃料燃焼によるCO2=ゼロ」となるカーボンニュートラルな燃料の一つです。
【研究グループ】
緒方 鞠さん
中石学術研究員
高藪助教
江口准教授
加河主幹教授
【謝辞】
本研究はJSPS科研費(JP20H00081)及び九州大学エネルギー研究教育機構若手研究者・博士課程学生支援プログラムの助成を受けたものです。
【論文情報】
掲載誌 :Journal of Environmental Management
タイトル:Production efficiency and cost reduction potential of biodiesel fuel plants using waste cooking oil in Japan
著者名 :Mari Ogata, Tomoaki Nakaishi, Hirotaka Takayabu, Shogo Eguchi, Shigemi Kagawa
DOI :10.1016/j.jenvman.2023.117284
【関連リンク】
産業理工学部 経営ビジネス学科 助教 高藪 広隆(タカヤブ ヒロタカ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2564-takayabu-hirota.html