世界最小クラスの体外式膜型人工肺の開発に成功

世界最小クラスの体外式膜型人工肺
世界最小クラスの体外式膜型人工肺

近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)医用工学科准教授の福田 誠らの研究グループは、世界最小クラスの体外式膜型人工肺を考案し、試作に成功しました。
本件に関する論文が、令和2年(2020年)11月21日(土)に、膜科学に関する国際的に影響力のある学術雑誌“Membranes”に掲載されました。

【本件のポイント】
●小児治療に使用できる最小クラスの体外式膜型人工肺を考案、試作
●高出力X線CT装置を用いて、体外式膜型人工肺内部の血液流路の非破壊撮像に成功
●コンパクトかつ高血液流量でも過剰圧力損失を抑制することができる

【本件の内容】
体外式膜型人工肺(membrane oxygenator、以下、膜型人工肺)は、心臓冠動脈バイパス術などの心臓血管外科手術などで使用されます。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重度の急性呼吸促迫症候群の治療にも使われ、重症患者にとっての「最後の砦」と言われています。
膜型人工肺には中空糸膜※ というものが内蔵されており、この膜を隔てて内腔部分に酸素ガス、外側に患者の血液が流されます。酸素と二酸化炭素が膜を交互に透過することで血液が酸素加され、酸素加された血液が患者に戻されます。こうした膜型人工肺の血液流路は、ヒトの血管に比べると非常に複雑で、血液の偏流や空気の滞留などの不具合が起こりやすくなるため、それを抑制できるような設計が望まれています。
本研究では、まず、多様な材料で構成される膜型人工肺内部の血液流路を非破壊で撮像するために、和歌山県工業技術センターにある高出力のX線CT装置を用いて、膜型人工肺使用時のX線造影剤と空気の滞留に着目して観察しました。これにより、膜型人工肺血液流路の局所部分で造影剤や空気が滞留していることを明らかにしました。これをもとに、血液や空気の滞留を抑制して過剰圧力損失を抑制できる膜型人工肺の設計コンセプトを考案しました。臨床現場での過剰圧力損失によるインシデントを軽減することが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌   :“Membranes”(インパクトファクター:3.094 2020)
論文名   :
Newly developed pediatric membrane oxygenator which suppresses excessive pressure drop in cardiopulmonary bypass and extracorporeal membrane oxygenation (ECMO).
(体外循環手術および体外式膜型人工肺治療において過剰圧力損失を抑制する新規小児用膜型人工肺の開発)
著    者:
福田 誠(近畿大学生物理工学部医用工学科)、徳嶺 朝子(近畿大学生物理工学部医用工学科)、野田 恭平(滋賀医科大学付属病院、2020年3月近畿大学生物理工学部医用工学科卒)、酒井 清孝(早稲田大学名誉教授)

【研究の詳細】
膜型人工肺は、膜を使用した膜分離法によって、患者の血液を酸素加することができる医療用機器です。分離膜(中空糸膜、平膜)は多孔質構造体であり、高分子で形成された粒子の三次元積層構造になっています。したがって、膜に開いている三次元細孔構造を観察・解析し、ガス、溶質や溶液の膜透過係数を測定して、三次元細孔構造と膜透過現象の関係を解析することが重要です。その上で膜の機能を最大限引き出すためには、膜を内蔵するデバイスやプロセスの設計が重要です。本研究でも膜型人工肺のデバイス設計が重要でした。膜型人工肺の血液流路はヒトの血管などに比べると非常に複雑なので、血液は層流ではなく乱流状態で灌流(かんりゅう)します。血液が乱流で灌流するとガス透過係数は高く、圧力損失を低くできるので、どのような血液流路を設計して乱流状態にできるかが重要となります。
一方、膜型人工肺の最も重篤な機能障害(有害事象)は、血液流路において発生する流路閉塞です。血液流路に血液凝固や血栓が生じて流路が閉塞し、圧力損失が増加すると、使用しているポンプの圧力では血液を膜型人工肺に灌流し難くなり、酸素加能も大きく低下します。この場合、当初使用していた膜型人工肺を緊急に別の未使用膜型人工肺に交換するなどの対応がとられます。この間、心臓血管外科手術やECMO治療は中断されますので、患者の生命を危機におとしめるインシデントとなります。
国外では、過剰圧力損失の発生率は0.4~2.5%であるという報告があります。一方、国内における日本心臓血管外科学会ワーキンググループは、過剰圧力損失に伴う膜型人工肺交換頻度は、成人は1/3,578例(0.03%)、小児は1/576例(0.17%)(2016年)であると報告しています。特に小児は成人の6倍の交換頻度であり、小児のインシデントの軽減が喫緊の課題です。
本研究では、まず、多様な材料で構成される膜型人工肺内部の血液流路を非破壊で撮像するために、通常の医療用X線CT装置ではなく、和歌山県工業技術センターにある430kVの高出力X線CT装置を用いて、流体が灌流している間のX線造影剤および空気の滞留を観察することを試みました。この実験的アプローチにより、膜型人工肺血液流路の局所部分での造影剤と空気の滞留を明らかにしました。これにより、血液や空気の滞留を抑制して過剰圧力損失を抑制できる膜型人工肺の設計コンセプトを考案し、試作しました。

【今後の展望】
本研究で考案、試作した血液や空気の滞留を抑制する世界最小クラスの膜型人工肺は、過剰圧力損失発生リスクの高い心臓血管外科手術に効果をあげることが非常に有望です。今後さらに、新型コロナウイルス感染症重症患者の治療に適したガス交換膜の開発が期待されます。

【用語解説】
※ 中空糸膜:代表的な分離膜の形態の一つ。フィルム上の平膜に対し、ストローやマカロニに似た形態が特徴。膜の厚み部分の物理的な三次元細孔構造や、医療用中空糸膜であれば血液と接触する表面の化学的特性(生体適合性)の設計がポイント。

【関連リンク】
生物理工学部 医用工学科 准教授 福田 誠 (フクダ マコト)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1248-fukuda-makoto.html
生物理工学部 医用工学科 講師 徳嶺 朝子 (トクミネ アサコ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/741-tokumine-asako.html

生物理工学部
https://www.kindai.ac.jp/bost/


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