生薬「延命草」に毛乳頭細胞を活性化する効果を発見 男女問わず様々な原因による薄毛に効果のある育毛剤の開発に期待

2021-01-22 15:00
延命草のエキスに、発毛の司令塔である毛乳頭細胞を活性化する効果を発見

近畿大学薬学総合研究所(大阪府東大阪市)の教授である森川 敏生と、株式会社加美乃素本舗(本社:兵庫県神戸市、社長:中村 範平)の研究チームは、同社のロングセラー育毛剤に配合している有効成分の由来生薬である「延命草」の研究を行いました。その結果、延命草のエキスに、発毛の司令塔である毛乳頭細胞※1 を活性化する効果を発見しました。延命草エキスの主要成分である「enmein(エンメイン)」という化合物が、毛乳頭細胞の増殖促進、増殖シグナルの活性化、成長因子の産生亢進という3つの効果を有することが明らかになりました。今後、本研究成果をもとに、男女問わず様々な原因による薄毛に効果のある育毛剤の開発が期待されます。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)1月8日(金)に、世界的な学術出版社であるシュプリンガー・ネイチャー社発行の学術雑誌“Journal of Natural Medicines”に掲載されました。

【本件のポイント】
●生薬「延命草」のエキスに発毛の司令塔である毛乳頭細胞の増殖を促進する効果を発見
●延命草の主要成分"enmein"が毛乳頭細胞の増殖スイッチを活性化する
●"enmein"が発毛・育毛に必要な成長因子の生成を促進する

【本件の背景】
脱毛症は、生命の危機となる疾患ではないものの、外見上の印象を大きく左右することから、男女ともにクオリティ・オブ・ライフへの影響が大きいことが知られています。脱毛症の原因には、ストレスや栄養不足、ホルモンバランスの乱れ、老化などが挙げられ、複数の原因が重なることにより脱毛症に至ることもあります。そこで近年、原因に関係なく脱毛の症状自体を改善する新たな治療薬の開発が推進されています。今回、研究チームは、発毛の司令塔である毛乳頭細胞を用いて、生薬素材の中から脱毛症の治療に有益な成分の探索研究を行いました。

【本件の内容】
本研究では、株式会社加美乃素本舗が55年間育毛剤の有効成分として使用してきた生薬「延命草」のエキスについて新規機能開拓研究を行いました。延命草とは、シソ科の多年草である「ヒキオコシ」のことです。20種類の生薬のエキスを毛乳頭細胞に添加培養し、その増殖率を測定した結果、延命草のエキスに毛乳頭細胞の増殖を促進する効果を発見しました。
また、この効果を指標に、延命草のエキスを分子レベルまで分離・精製し、含有成分を明らかにするとともに、同植物に含有されているenmein(エンメイン)、isodocarpin(イソドカルピン)、nodosin(ノドシン)、oridonin(オリドニン)という化合物が、毛乳頭細胞の増殖を促進する成分であることを同定しました。さらに、主要成分であるenmeinを用いて詳細な機能性解析を行った結果、毛乳頭細胞に投与することにより、細胞の増殖に関与するシグナルの一つを活性化することがわかりました。加えて、髪の成長と脱毛の周期であるヘアサイクルの成長期を延長する血管内皮増殖因子の、毛乳頭細胞からの分泌を亢進する効果も確認されました。
この結果から、男性女性問わずさまざまな原因による薄毛に効果のある育毛剤の開発につながることが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:Journal of Natural Medicines
    (インパクトファクター:2.055 2019)
論文名:
Ent-Kaurane type diterpenoids from Isodonis Herba activates human hair follicle dermal papilla cells proliferation via the Akt/GSK-3β/β-catenin transduction pathway
(延命草由来のジテルペンノイド成分はAkt/GSK-3β/β-cateninシグナル伝達経路を介して毛乳頭細胞の増殖を促進する)
著 者:
萬瀬 貴昭、羅 鳳琳、加藤 和寛、岡崎 茜、岡田(西田) 枝里子、柳田 満廣、中村 翔、森川 敏生

【研究詳細】
20種類の生薬のエキスを毛乳頭細胞に添加培養し、その増殖率を測定した結果、生薬"延命草"のエキスに毛乳頭細胞の増殖を促進する効果を確認しました。
さらに、毛乳頭細胞増殖促進効果を指標に延命草エキスの分離・精製を行った結果、エントカウラン型のジテルペノイド※2 であるenmein(エンメイン)、isodocarpin(イソドカルピン)、nodosin(ノドシン)、oridonin(オリドニン)という化合物が、毛乳頭細胞の増殖を促進する成分であることを同定しました。

毛乳頭細胞増殖促進効果を指標に延命草エキスの分離・精製を行った結果

そのなかでも延命草の主要成分であるenmein(エンメイン)を用いて、さらにその作用メカニズムを分子生物学的手法にて解析しました。その結果、毛乳頭細胞にenmeinを投与することにより、細胞の増殖を制御する生体内シグナル伝達(増殖スイッチ)の一つである「Akt/GSK-3β/β-cateninシグナル伝達経路」を活性化していることがわかりました。
毛乳頭細胞は、髪の成長を促す信号と脱毛へ誘導する信号のバランスによって、髪の成長と脱毛の周期である毛周期※3 (ヘアサイクル)を制御しています。特に髪の成長を促す信号を成長因子と言い、ヘアサイクルの成長期を延長することが知られています。enmeinには、その成長因子の一つ「VEGF※4 (血管内皮増殖因子、vascular endothelial growth factor)」の毛乳頭細胞からの分泌を促進する効果があることも確認されました。

【用語解説】
※1 毛乳頭細胞:毛周期を調節する成長因子を産生する細胞。毛髪の成長を調節する。
※2 ジテルペノイド:炭素数5個の分子単位(イソプレン単位)が4つ結合した天然有機化合物の総称。構造多様性に富み、様々な基本骨格が存在する。エントカウランもその基本骨格のひとつである。
※3 毛周期:毛髪には成長期、退行期、休止期からなる周期があり、成長および脱落を繰り返す。薄毛や脱毛は、毛周期の乱れが原因であることが多い。
※4 VEGF:血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor)。成長因子の一つ。毛周期に作用し、毛髪の成長を促進する。

【関連リンク】
薬学総合研究所 教授 森川 敏生 (モリカワ トシオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/823-morikawa-toshio.html

近畿大学薬学総合研究所
https://www.phar.kindai.ac.jp/centers/

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